羽生さんという二人の天才がいます。
一人は将棋の羽生善治(はぶ よしはる)九段。七冠独占・永世七冠・タイトル通算99期など伝説といっても過言ではない記録を打ち立てています。
もう一人はフィギュアスケーターの羽生結弦(はにゅう ゆずる)選手。2大会連続オリンピック金メダリストであり、2013年からグランプリファイナル4連覇など輝かしい記録をお持ちです。
なぜこの二人の羽生という天才をご紹介したかというと、読みは違えど同じ名字という共通点に加え、二人とも〈怒り〉に関する名言をお持ちだったからです。
勝負に一番影響するのは「怒」の感情だ。
羽生九段はこの著書の中でん「どんなに不利な形勢でも感情を表さないようにしている」ということも述べられて言うます。
「負けてたまるか」という怒りの感情が原動力になる
対照的だと思いません?
将棋の羽生九段は、勝負のために怒りを抑えるというような発言をされています。一方フィギュアスケートの羽生選手は怒りがエネルギーとなっている、と。
どちらが正しいか、という話をしたいのではありません。ましてやお二人は競技も異なり、そもそも発言の一部分を切り取ったものです。もっと深い意味があるのかもしれませんし。
わたしが言いたいのは、怒りは不毛である場合もあるし、発散することで状況がよくなることきもある、ということです。
全ての怒りのを〈抑え込む〉べきではない
確かに怒りはコントロールすべきです。しかしコントロールするということは上手に扱うことであり、決死全てを押さえ込んで〈無いものとする〉必要はありません。
心理学者のサルバトーレ・ディダードは、怒りを表に出した方がよい理由として次の2点を挙げています。
- 溜まった不満を発散することができる
- 状況を変えるきっかけとなる
怒りの感情は、溜め込み過ぎると、より強い感情へと肥大し、歪んでしまうことがあります。
その結果、〈恨み〉や〈憎しみ〉となり、攻撃的な行動に繋がることもあれば、抑うつ状態のようにエネルギーを奪ってしまうこともあります。発散するって大事。
また、フィギュアの羽生選手のように、怒りをエネルギーに変えたという例もあります。
2014年にノーベル物理学を受賞した中村修二さんは、会見の席で研究への原動力を聞かれ、
アンガー(怒り)だ。怒りなくしては成し遂げられなかった。今も時々怒り、それがやる気になっている。
と答えています。
ですから、怒りを表すことも大事なのです。もちろん、誰かれ構わず怒鳴り散らせばいいわけではありません。
〈怒りどき〉と〈怒りかた〉がポイントになります。
自分の怒りの傾向を知る10問
次の質問に「あてはまる(1点)」「ややあてはまる(2点)」「当てはまらない(3点)」で回答してみましょう。すべて回答できたら合計得点を計算してください。
1.怒ることはほとんどない
2.怒りを表に出すと、憎しみと勘違いされるので、できるだけ避ける
3.正直に言うと、受け入れてもらえなくなるのが怖いので、友だちに対する怒り心の奥にしまっておく
4.怒っても論争には勝てないと思う
5.怒りを他人にぶつけるよりは、自分で処理してしまった方がいい
6.思い通りにいかないときに怒るのは、子どもっぽい反応だと思う
7.怒りながら人をしつけようとするのは間違いだと思う
8.怒りを表に出すと、さらなる怒りが生まれると思う
9.怒っている時でも、笑い物にされたく無いので、できるだけ隠そうとする
10.自分の身近な人に対して怒っているとき、つらい思いをするならその気持ちを相手に伝える必要はないと思う
サルバトーレ・V・ディダード/自分がわかる909の質問(回答の選択肢を統一化するように一部語尾を変更)
「あてはまる(1点)」「やや当てはまる(2点)」「あてはまらない(3点)」で回答を足していきましょう。
合計点数で、あなたの怒りに対する向き合い方の傾向をみることができます。
- 24〜30点
自分の怒りを受け入れた上で、どのようにそれを表現すれば、他人とより良い関係を築けるか、わかっている
- 17〜23点
なぜ「誤解を招かないよう」怒りを表に出すべきなのかの理解については平均的なレベル。しかし常に向上の余地はある。
- 10〜16点
怒りをうまくコントロールできておらず、他人との関係をうまく築けない、特に身近な人に対して、怒りを感じるだけで罪悪感をおぼえてしまうのかもしれない。あとで仕返しをしようと考えるよりは、怒りをすぐ出してしまった方がいい。
サルバトーレ・V・ディダード/自分がわかる909の質問
怒らなくていいこと
日本アンガーマネジメント協会認定ファリシテーター小林 浩志氏は次のように言っています。
怒らなければいけないことには上手に怒れ。怒らなくていいことには怒らないようになれ
東洋経済2014/10/13 _「怒りエネルギー」が導く“成功”と“破滅”
「怒らなくていい」とはどのような状況でしょう?
怒ってもどうしようもない時は怒らない
怒らなくていい状況の一つが「怒ってもどうしようもない」ときです。
たとえば電車が遅延する。携帯の電波が繋がらない。天気が悪い。これらは怒っても事態が好転することは決してありませんよね。
こんな時は怒っても不毛なだけです。現実的な問題の解決方法を実行したり、自分の怒りを紛らわすような行動をしたりするほうがよっぽどいい。
不毛なことで怒らないようにするためには、日頃から〈自分のコントロール可能なこと〉と〈自分のコントルール不可能なこと〉を意識してみることです。
そうすると、意外と「自分のコントロール不可能なこと=怒ってもしょうがないこと」も多いと気づかされます。
よく挙げられる「過去と他人は変えられない」という言葉。つまり自分が関与できない人の行動に怒っても仕方がないのです。
「頭ではわかってても、どうしょうもないことでイライラしてしまう!」
わかります。すぐに気持ちは切り替えられないですよね。
怒りに囚われないためにも、現実的な対処方法へ目を向けてるのはどうでしょう。
「その人・そのことに《自分は》何ができるか」
つまり、「自分にコントロール可能な部分は何か」を考えてみるんです。
天気は変えられないけど、傘をさすことで濡れないという選択肢を選ぶことはできます。
他人が100%自分の思い通りのになることはありません。ですが、《あなたが行動を起こす》ことで関係を良好になったり、自分の意見に歩み寄ってくれるかもしれません。
怒りの方向が誤っている時
怒らないほうがよいもう一つの状況が「怒りを向ける方向が正しくないとき」です。
あなたが怒った時、その怒りには原因があったはず。怒りはその〈問題〉に向いています。
ところが怒っているうちに〈すっきりするまで怒ること〉自体が目的になってしまうことがあります。
あるいは「相手に恐怖を与えたい」「不快にさせたい」など、より相手への攻撃にベクトルが向くこともあるのです。これが発展すれば、暴力や破壊行為につながることがあります。直接的な行為や、相手への暴言、影での嫌がらせなどです。
暴力や破壊行為自体も大きな問題です。さらに厄介なのは、こうした行為をすることで、あなたの中に後悔や罪悪感を引き起こします。
後悔や罪悪感は心を不安定にします。不安定な心は、怒りを生み出しやすくなります。《負の連鎖》です。
あなた自身の幸せのためにも、間違ったベクトルで怒ること、怒りに身を任せることはやめたいですね。
上手に怒る
上手に怒るというのは「何に対して、どれぐらい、いつまで怒るか」を自分できちんと決められることと言えます。
言い換えれば、怒りながらも分別を持つ。冷静に怒る。これが怒りをコントロールし、前向きに怒るということでしょう。
もちろん、簡単なことではありません。
怒りをコントロールするトレーニングを『アンガーマネジメント』と言います。
有名なテクニックの一つとして、〈怒りが沸いてから6秒待つ〉というものがあります。
深呼吸をしたり、遠くを見つめたり、なんなら一度その場を離れるという手もあります。
一旦落ち着かせることで、完全に怒りが消えなくてもいい。『怒りで我を忘れてしまう』といった状態を防ぐことができます。
アンガーマネジメントには、こうした行動のトレーニングもあれば、思考のトレーニングもあります。
本もたくさん出ていますので、気になる方はぜひ学んでみてください。
いつでもゴキゲンでいたいけど
喜怒哀楽という言葉があるくらい、怒りとは人間の代表的な感情です。
完全に無くしたり、無視したりできないものです。
とはいえ、怒るのも、怒られるのも好きな人はいません。(厳密には少数派ですね)
怒りをコントロールし、上手に向き合いましょう。自分と、自分の大事な人の幸せにつながっているハズです。
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怒りの癖やタイプを診断し、それに合わせた怒りとの付き合い方が書かれています。すぐに実践できるテクニックが多数あり、取り入れやすい内容となっています。
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